Plush名義で1998年にDominoとDrag Cityからリリースされたアルバム"More You Becomes You"。当時リアルタイムで聴いていたわけではないが、確かSteve Albini録音の作品にハマって色々聴きあさっていた時にたまたま巡りあったのだったと思う。ほぼ全編ピアノと歌だけのシンプルの極みのような作品で、全10曲入り。トータルで30分くらいのアルバムにしては短い小作品である。おそらくSteve Albiniによる一発録りで(もしかしたら通してツルッと全曲録音したのかもしれない)1曲目"Virginia"の冒頭で録音機材の起動音のようなものが入っていたり、3曲目の"(I didn't know) I was asleep"では声が裏返っても笑って誤魔化しそのまま曲が進んでいったり、最終曲の後には少し長めの余韻の後PlushことLiam Hayesがピアノの前から立ち去る足音が入っていたりする。終始リラックスした雰囲気と同時に伝わってくる不安定さや緊張感は狙って作られたものなのか、自然にそうなって出来上がったものなのか知る由もないが、奇跡のようなバランスでその時の空気がそのままパッケージされた紛うことなき90年代の名盤だ。そして自分にとっては人生の節目に楔を打ち込んだオールタイムフェイバリットとなる作品なのである。疲れた日にもいい、雨の日にも合う、友人と酒を飲んでいる時も、1人でいる時も、いつ聴いても最高なのだ。中古で見かける度に何度もレコードを買い直し、人にあげたり勧めたりしてきた。このアルバムが好きな人も沢山いるだろう。最近だとGEZANのマヒトともこの作品の話をした。マヒトのコラムにも出てくる。
そしてそれ以降Plushでの作品のリリースや、その後のLiam Hayes名義でのリリースがある度に"More You Becomes You"の続きが聴きたいと思いながら、その都度チェックしてきたがそれ以降あのアルバムと同じような作品が作られることはなかった。"More You Becomes You"以外のアルバムが良くないというわけではない、以降の作り込まれたポップスはそれ単独では素晴らしい内容だったと思う。ただ、彼の音楽に自分が求めていた音ではなかったというだけの話だ。面倒くさいファンの勝手過ぎる戯言だと思う。
今朝高速道路を運転中、最近出たNOT WONKのDown the Valleyを通して聴く。とても良い、隅々まで丁寧に作られているのが伝わってくる。バンドアンサンブルも加藤くんの歌も生き生きしているし、バンドが今すごい勢いで更新されていっているのだろう。溢れ出るエネルギーが凄い作品だ。このアルバムを地方都市苫小牧で作ったというのも他人事でない感じがして、俺も頑張らないとなと背中を押された気がする。