Liam Hayesのカセット

仕事中に中古のレコードの相場なんかをチェックしたりしながら、たまに昔好きでよく聴いていたアルバムを作った人が最近どうしているのかをふと思い出して検索にかけたりすることがある。

 

Plush名義で1998年にDominoとDrag Cityからリリースされたアルバム"More You Becomes You"。当時リアルタイムで聴いていたわけではないが、確かSteve Albini録音の作品にハマって色々聴きあさっていた時にたまたま巡りあったのだったと思う。ほぼ全編ピアノと歌だけのシンプルの極みのような作品で、全10曲入り。トータルで30分くらいのアルバムにしては短い小作品である。おそらくSteve Albiniによる一発録りで(もしかしたら通してツルッと全曲録音したのかもしれない)1曲目"Virginia"の冒頭で録音機材の起動音のようなものが入っていたり、3曲目の"(I didn't know) I was asleep"では声が裏返っても笑って誤魔化しそのまま曲が進んでいったり、最終曲の後には少し長めの余韻の後PlushことLiam Hayesがピアノの前から立ち去る足音が入っていたりする。終始リラックスした雰囲気と同時に伝わってくる不安定さや緊張感は狙って作られたものなのか、自然にそうなって出来上がったものなのか知る由もないが、奇跡のようなバランスでその時の空気がそのままパッケージされた紛うことなき90年代の名盤だ。そして自分にとっては人生の節目に楔を打ち込んだオールタイムフェイバリットとなる作品なのである。疲れた日にもいい、雨の日にも合う、友人と酒を飲んでいる時も、1人でいる時も、いつ聴いても最高なのだ。中古で見かける度に何度もレコードを買い直し、人にあげたり勧めたりしてきた。このアルバムが好きな人も沢山いるだろう。最近だとGEZANのマヒトともこの作品の話をした。マヒトのコラムにも出てくる。

https://www.jetsetrecords.net/column/mahitothepeople/2018-12-24/

 

そしてそれ以降Plushでの作品のリリースや、その後のLiam Hayes名義でのリリースがある度に"More You Becomes You"の続きが聴きたいと思いながら、その都度チェックしてきたがそれ以降あのアルバムと同じような作品が作られることはなかった。"More You Becomes You"以外のアルバムが良くないというわけではない、以降の作り込まれたポップスはそれ単独では素晴らしい内容だったと思う。ただ、彼の音楽に自分が求めていた音ではなかったというだけの話だ。面倒くさいファンの勝手過ぎる戯言だと思う。

 

それでも寡作ながらリリースがある度にチェックしつつ、あれはあれで特別な作品だったのだなと確認しながらそんなに期待することもなくなっていった。それが今日、たまたまYouTubeでLiam Hayesで検索したところヒットした聴いたことのない音源、それがこの"Mirage Garage"である。

www.youtube.com

何だこれは、何かのブート音源かと思いつつ聴いてみると何とも言えないヨレた質感の音像と頼りない歌。最高過ぎて何度も聴いた。これを待っていたのだ!!とかいうと大袈裟かもしれない。ピアノの弾き語りでもないし、曲調も近くはない。ただ同じような空気を感じたというだけで買いかぶっているのかもしれないし、たまたま今日ふとしたはずみで見つけたという偶然のような出会いがノスタルジックな気持ちのスイッチを入れたのかもしれない。

 

Liam Hayesオフィシャルのホームページをチェックすると、去年の9月にリリースされていたようだ。カセットのみで。カセットだけかよ!

https://www.liamhayesandplush.com/releases/mirage-garage

面倒くさいことするなぁと思いながら彼の書いた記事を読むと

https://www.liamhayesandplush.com/news/2018/6/20/530u1jv3w29hzt6xf6yrvrotijlced

(英語は得意じゃないので何となくしかわからないが)前作の"Slurrup"のリリース後のツアーを終えて疲れ切っていたところ、休暇を取ってLAで気分転換をしている間に思い立ってLuther Russellという人と一緒にガレージで4トラックのMTRか何かを使い自分の楽しみのために録音した作品のようだ。録ってみたら良かったので出すけど、カセットで録音したからカセットで出すのがいいと思う、みたいなことが書いてあった。言っていることはわからなくもないが、買う方からしたらハードルは上がる。売るとか届けるとかいう段階の前の部分が文章になっている。嘘のない感じがいい。

 

そしてすぐにオフィシャルのサイトから注文したのは言うまでもない。海外通販なので届くまで少し時間がかかるが、それを待っている今の状態も何だかドキドキしていい。音はすでにYouTubeで聴いてるので届いた時に初めて聴くわけではないが、それでもやはりこうしてまた出会えた音楽が自分のところに届くのを待つのはいい。久しぶりの感覚だ。

 

ふと自分の今やっているバンドと、CDやレコードの売り方のことを考えた。正解も不正解もないと思うが、迷いながらやってきた。今も迷っていることは沢山あって日々これからの音楽との付き合い方について考えている。そして今このタイミングで再び出会ったPlush(Liam Hayes)のこのカセットが自分に何か大切なことを教えてくれたような気がしている。この自分の今の気持ちもパッケージ出来るならば、楽しみにしてくれている人達の元へ自分の作った音楽と一緒に届けたい。

 

カセットプレーヤー、持ってないのでカセットが届いたら買うぞ。

 

 BGM : Liam Hayes / Mirage Garage