ザ・プレイリスト

仕事の合間にNetflixで"ザ・プレイリスト"というSpotifyのCEOダニエル・エクの半生を題材に作られたフィクションドラマを観ていた。一応フィクションてことになっているが、大体こんな感じでSpotifyが出来上がっていったのかなという内容。起業に関わった何人かの関係者の視点から各話が展開し、飽きずに最後まで観ることが出来た。興味のあるテーマでなかったらそんなに面白いものではないのかもしれない。興味がある人は”音楽が未来を連れてくる(榎本幹朗著)”や”誰が音楽をタダにした?(スティーヴン・ウィット著)”とか併せて読んでもいいと思う、面白い本だったので。

2000年代初頭の違法音楽サイトと大手レコード会社の対立から始まって、今や誰でも知っているようなサブスクと呼ばれる音楽ストリーミングサービスの時代へ。いち起業家によるサクセスストーリー、それに纏わる苦悩や挫折、葛藤。ドラマに通底する”音楽は誰のものか”という裏テーマは鑑賞者の置かれている立場によって捉え方が変わってきそうだが、自分は音楽を作る側の目線で終始ムカつきながら物語を観ていた。

とどのつまり違法か合法か旧体制か新体制かというシステムの入れ替えや時代の変遷があったとて、搾取構造自体にイノベーションは起きていない。いつまで経っても音楽業界はこんな感じで時代の変化にフィットする仕様に変形し寄生し続けるだけである。自分が残りの人生を終えるまでの間に大規模な変革がこれから起こるとは到底思えない。

国民総インターネットの時代、これだけ繋がりという言葉に免疫が出来た今の世の中であっても、音楽を作って届ける過程で搾取され続ける方を選ばないといけないようなムードというか、そのやり方でないとそれが音楽であると認められない空気のようなものがある。それを搾取と呼ぶか妥当な手数料だと思うかは人による、それでも必要のないセクションが多すぎる、多すぎてわからなくなっていると言えるかもしれない。内容のよくわからない携帯電話の約款や、知らない間に多く支払っていた消費者金融からの借金みたいなものか。とにかくわかりにくくしておいて情報弱者が損をするように仕組まれている。自分の不勉強が災いしているとも言えるし、身から出た錆なのかもしれない。

「LOSTAGEはなぜサブスクに登録しないのか」というようなことをよく聞かれる。俺に聞かれてもなと毎度返答に困るが、どちらかといえば「なぜ登録するのか」を考えた方がいい。別にLOSTAGEが特別な何かをやっているわけではない、むしろやっていないのだから。皆が使っている理由、というものがあるはずで、それが自分達には当てはまらないから使わないというだけのことである。

楽曲登録者がそれを使う理由とは何か。

・CDが売れなくなったから

・より多くの人々に聴いてもらえる機会

・海外での展開

理由って大体こんな感じだろうか。CDは過去のリリースとそう変化なく売れているし、より多くの人に聴いてもらいたいという野心もあまりなく、海外での展開も考えていない人には特に必要のない仕組みである。

そもそも配信で多く聴かれている人はCDやレコードをリリースしてもそれなりに売れるだろうし、ある程度売れればそこからは音楽活動を続けていれば聴く人もそれに伴って増えていくし、そういう人達は海外での展開もその先の視野に入っていておかしくない。そしてそういう人達は上手くいっているので、特に現状に不満はなく用意されたプラットフォームで利益を最大化するためにそれを利用する。

言いたいことが溜まっているのは、音源も売れず配信の再生回数も伸びず聴いてくれる人の数も増えない人らである。そんな音楽が海外で評価されるということもほとんどなかろう。たまに日本では受けないので海外を視野に入れる、とか言っている人がいるがそれで上手くいくことはごく稀にしかない。一握りの特殊なサンプルを取り出して自分もそれを目指す、というのは別に悪いことではないがそれが皆に出来るのであれば誰も苦労しない。それが出来るやつは国内ベースでもそれなりにうまくやっている、と思うのだ。

自分の手を使って自分の作った音楽を聴き手に届けることが出来ない、という諦めのような気持ちが最初にあるのではないか。仕方なくフェアでないルールに従っている。誰も自ら進んで搾取構造の中に飛び込んで、それを駆動させる歯車になろうと思っていなかったはずである。

先にも言ったが国民総インターネットの時代、これだけ繋がりという言葉に免疫が出来た今の世の中である。素晴らしい音楽さえ作っていれば、それはどれだけ隠してもすぐに誰かに見つかるようになっている。世の中には誰も知らない良い音楽を日夜ディグし続ける中毒者達がたくさんいる。良い音楽は隠す方が難しい。コンテンツとして消費することに慣れ過ぎてしまい、音楽はそれ自体が優れたメディアであるということを忘れてはいないか。余計なことはあまり考えず、まずはそれさえ作ればいい。音楽は誰のものか。俺のもので、俺たちのもので、あなたのものである。それが素晴らしい音楽であれば、必ずここからそこへ辿り着くように出来ている。

諦めてはいけない。