他者の靴を履く / ブレイディみかこ

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他者の靴を履く / ブレイディみかこ
 
こないだ沖縄に那覇のライブハウスOUTPUTの10周年イベントで誘ってもらって、ツアーに行ってきた時にLOSTAGEのライブ出演と弾き語りソロ出演の日程に一日空きがあり。他LOSTAGEメンバーとPA岩谷は先に奈良に戻りだったので、沖縄に一人残ってライブまですることがなくどうしようかなと思っていたら、1日目のイベントで共演もさせてもらったoffseasonの吉濱さんが車出してくれて、色々な場所に連れて行ってくれた。沖縄は車でないといけない場所も結構あるので、とてもありがたかった。
 
それで1日移動中の車内なんかでゆっくり話をしてたら(以前から面識はあったが2人でゆっくり話すのは初めて)結構共通の趣味とかもあって、そん時にオススメしてもらった本。
本や音楽の話以外にも地元カルチャーの話とか、米軍基地の話とか、多分沖縄に住んでる奴にしかわからないことがあって(それは奈良にもあると思う)それを聞いて沖縄をわかったような気になるのは違うとは思いつつ、沖縄で暮らす吉濱さんの視点を少しの間拝借して現地の景色を見ることが出来たような気がする。
 
その体験が当てはまるのかどうかはわからないが、他人の考えや感覚を想像したり自分を置き換えて共感・感情移入するスキルや能力のことをエンパシーというらしい。
 
著者のブレイディみかこさんがこの本より前に書かれた"ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー"という本の中で取り上げられたこのエンパシーという言葉に焦点を絞って書かれた一冊。"ほくはイエローで〜"の方は未読なので今度機会があったら読もうと思ってる(本屋でよく見かける)。
 
エンパシーという言葉の定義や考え方を軸にアナキストや哲学者、学者や政治家の著書や意見をわかりやすく引用し、かつ様々な角度からエンパシーとは何かについて掘り下げて書かれている。大雑把にざっくりまとめると、その語源やそこから派生する言葉、どういうプロセスでそれが発動しているのか、どのような人々がその技術・能力に長けているのか、それによって世の中にどういった影響が出たり出なかったりするのか、それは良いこと(正しい・ポジティブな)なのか或いは悪いこと(間違った・ネガティブな)ことなのか、等々。この本に通底するテーマでもあるアナキズム・相互扶助の思想と哲学、漠然とした危なっかしいイメージとは裏腹に民主主義とは何かを改めて考えるきっかけにもなった。
 
「人の気持ちを考えて」とか「自分がされて嫌なことはしない」「他人に迷惑をかけない」なんてことをよく聞いたり自分でも言ったりしている。でも、それについて深く考えることはあまりしない。何となく思いやりや優しさという言葉を当てはめて片付けられてしまいそうなエンパシー、そう単純な話でもないようである。第10章"エンパシーを「闇落ち」させないために"ではDVや児童虐待、テロリストの思考回路とも紙一重のエンパシーのダークサイドについて書かれており、人間の複雑さはとんでもないなと思いながら読んでいた。
 
普段自分の中を何となく通過していく思考や感情に名前が与えられていくのは読んでいて気持ちが良い、目から鱗のおすすめ本。