思い出になる前に

人が死ぬとそれが世間で話題になる。
バンドが解散したり、店が閉店したりする時も同じようなことが起こる。何かが終わるとそれが自分から切り離されて、少し離れたところから見えるものがあるのだ。爪を切ったり、髪を切ったりすると今まで気にしてもいなかった物が突如目の前に現れる。それがかつて自分の一部であった何かだということを思い出させる抜殻のようなもの。
自分と自分以外の境目は案外だらしなく漠然としている。当たり前が当たり前でなくなったとき、自分の一部が自分から切り離されたときに人は何かに気付く。思い出は切り離され、整理されていくものだ。
そんなことには無自覚に、無感覚に、なんとなく暮らしている。鈍感でないと生きにくいので仕方がない。
良い映画を観た後には感想を誰かに伝えたくなるものだが、自分の人生が誰かにとってそうであればよいなとふと思う。物語の終わりは人々の記憶を分節し、横たわった抜殻は我々に語りかける。それが思い出になる前に、残された者達はそれを目一杯美しく飾り付け、許し、愛せばいい。
生きた分だけ思い出は増えて、いつかそのうち皆死ぬのだから。さよならだけが人生だ、正直意味はよくわからないが多分そうなのだろう。