僕等はまだ美しい夢を見てる 〜ロストエイジ20年史〜

 ライター石井恵梨子さんと初めて会った時のことははっきりと覚えていないが、確かロストエイジがUKプロジェクトから作品をリリースしていた頃だったと思う。

 

 2000年代の前半、東京のインディーといえ大手のレーベルからのリリースがあり、知名度のあるバンドとの共演や都市部でのライブが増えてきた頃だった。作品のリリースがあるとこんな田舎の無名バンドでもいくつか取材があった。どうやらライターという仕事があり、その人たちの質問に答えたりするようだ。当時出会った音楽系ライターの中の一人が石井さんだった。

その頃は自分たちのメディア露出の裏側で動く金やコネのことなど知る由もなく、俺らもエラくなったなぁとアホ丸出しで喜んでいた。ピュアだったというと聞こえはいい、要するに何も考えていなかった20代の前半。次のライブとそのためのスタジオ、次のリリースとそのための曲作り。頭の中にあるのはそれくらいで、あとはどうでもよかった。バンドをやるためにバイトをしながら、我武者羅に活動しているだけで気持ちは満たされていた。

 突然現れた業界人たちと、それを取り巻く音楽業界。石井さんもその中の一人、特に意気投合するわけでもなく、かといって嫌な感じがしたわけでもない。「こういう仕事もあるんだな」くらいに思っていた。その後も石井さんとはバンドの歴史の節目節目で会う機会があり、音楽の話もしたし他愛のない話もしてきた。

 この人はちょっと他の人とは違うかもしれないと思うようになるのは、ロストエイジが所謂音楽業界とのやり方のズレに自覚的になり距離を置くようになってきた以降、金やコネという柵から解放され、取材者/取材対象者としての利害関係が割り切れるようになってからのことだ。えらく時間がかかってしまったものだが、その分の強い信頼が築けたと言えるかもしれない。

 メンバーの脱退や、レーベルの独立、THROAT RECORDS実店舗の始動、その他諸々、紆余曲折。遠く離れた街から、ロストエイジの長く屈折した歩みを誰よりも注意深く観察し続けた奇特な音楽ライター、それが石井恵梨子その人である。

 

出会ってからかれこれもう15年くらい経った、時間は矢のように通り過ぎていく。当たり前の話だがその間に世の中は変化し、それに伴って俺達も変わった。得たものがあり、失ったものがある。あの頃と変わっていないものがあるとしたら、それはなんだろうか。

 

 コロナ禍の2020年、夏の終わりに石井さんから突然連絡があった。

ロストエイジの本を出したいのだが、どう思う?」

 

 どう思うも何も、その時点で既に石井さんの頭の中には各章に配置されたテーマと本の大筋、伝えたいメッセージが粗方出来上がっており、あとはインタビューと取材でそれに肉付けをしていくだけ。出版が決まってから本の完成までは驚くほど早かった、今まで時間をかけて築いてきた信頼関係の賜物である。

 

自分の目で見ている景色には、当たり前だが自分はいない。第三者の目を借りることで浮かび上がってくる景色があり、自分だけではもう思い出すことが出来なくなってしまった儚くも大切な物語がある。過去を振り返るのは苦手だが、こんな素敵な本になるのならたまには昔話も悪くない。

 

果たしてライター石井恵梨子にしか書けない一冊の本が出来上がった。

 

 この本の内容に関して、石井さんの言葉を自分の言葉が濁らせてしまう気がするので説明は割愛させてもらう。

 

”僕等はまだ美しい夢を見てる”

 

 始まりも終わりもない。この本には続きがあり、僕等がいつか見た美しい夢にもきっと続きがあるのだろう。

 

f:id:hostage:20210215135634j:plain

 

 

THROAT RECORDS ONLINE SHOP 

blue print book store

Amazon

楽天ブックス