色川武大 / オールドボーイ

朝からテレビを見ていたら、2022年本屋大賞なるものの特集が組まれていた。店に出勤前に本屋に立ち寄ると、さっきテレビで見た大賞を獲った本が店頭の平台に沢山積み上げられていた。今日はこれ、売れるだろうな。扱っているテーマも偶然なのか意図的なのか時事問題に深く関わっていて、世の中の賞と呼ばれるものとその業界の利害関係を邪推してみたりしていた。なんとも性格が悪い。

昨日の明け方まで、少しずつ読んでいた本。以前横浜F.A.D.で自分の弾き語りライブがあった時に前後に暇な時間があったのでブラブラしていたところ、商店街の本屋で見かけたので購入。時間がある時に少しずつ読んでいた。読み終わってしまったので少し寂しい。

この人の本は好きで、たまに見かけたら買って読んだりしている。麻雀の世界では雀聖と呼ばれ日本のピカレスク小説の名手として阿佐田哲也の名でも有名なようだが、そちら名義の作品はまだ読んだことがない。色川作品を最初に読んだのはどこかの古本屋で手に取った"うらおもて人生録"という本だったと思う。

色川武大は1989年に60歳で亡くなったようだが、この本は彼が86年以降の晩年期に発表した短編を10作品集めたものである。人生の幕引きに書き残したのが最終章"オールドボーイ"、痺れる。読み終わってから調べたところ遺作だったとのことで、また時期をみて読み直そうと思った。いつ、誰が、どのような状況下で書いたものかということをあまり気にしたことがなかったが、本の読み方にはいろんな角度があって面白い。

今の時代には合っていないかもしれない、差別用語や女性蔑視にあたる表現も散見される。発表された当時の時代背景もあると思うが、気持ちよく読めない部分も確かにある。だから読まないというのではなく読んで確かめる、というのが感覚的にはしっくりくる。

それはそれで考えることとして、色川武大は文体が感覚的にフィットして読んでいて気持ちがいい。紡がれる物語にはどこか陰があり憂愁があり、そして色気がある。

ページを捲ると、学生時代に不良に憧れたあの頃の青い気持ちが蘇る。煙草が吸いたくなる一冊。

f:id:hostage:20220407124450j:plain