LOSTAGE / HARVEST

この音楽を必要とする人がどこかにいるならば、こんな状況だからこそ出来れば早く届けたい。

思い立ったが吉日、LOSTAGEの新しいアルバムをBandcampで配信販売することにした。先ほどレコーディングエンジニアの岩谷啓士郎氏からマスタリングの工程を経て送られてきたばかりの、まだ湯気の出る出来立ての音源である。

 

https://lostage.bandcamp.com/

 

2020年4月、史上最悪のタイミングで我々LOSTAGEの新しいアルバムは完成することになった。

 

2001年に地元奈良で結成してから20年近くが経ち、通算8作目のフルアルバム(ミニアルバム、その他コンピレーションやライブアルバム除く)になる、タイトルは"HARVEST"、収穫という意味だ。こんなタイミングで一体何が収穫出来るというのか。この未曾有の状況の中、自分でつけたアルバムタイトルに突っ込みたくもなる。

先日リリースの目処がやっと立ち、様子を見ながらインフォメーションを開始したばかりだったが、事態は思ったよりも悪く世界を席巻するコロナウィルスの感染拡大は止まることを知らない。心配してはいたものの、1ヶ月前は時間が経てばそのうち収束するだろうとまだ楽観的に考えていた。日に日に追い込まれていく現場からの声や感染者数増加のニュースを毎日毎日SNSで眺めていると、どんどん気が滅入ってくる。

 自分の営む中古レコードショップ兼レーベル事務所のTHROAT RECORDSは先月末に4月いっぱいの営業停止を決めて、現在は自宅にいるか営業していない店の中で何かしらの作業する日々。閉められたシャッターの内側には、今までに感じたことのない澱んだ空気が充満してきている。

 この1ヶ月の間にも色々なことがあった、コロナの影響をもろに受けたエンターテイメント業界への補償を求める署名運動があったり、スーパーマーケットから特定の商品が買い占められ姿を消したり、ライブハウスから無観客での動画配信が始まったり。自粛で営業を停止する店が増え、その間にも感染者数はどんどんと増え、政府のまるで頓珍漢な記者会見が繰り返され、それを憂い落胆する声は日に日に大きくなっている。

自分が今いるのが音楽業界、エンターテイメント業界のどの辺りなのか正直よくわからない。もしかしたら属してすらいないかもしれないが、そのくらい自由に気ままにやってきたなと思う。そんな我々でさえ3月4月のライブが次々とキャンセルになり、ついさっきニュースで見た現象がすごい早さで直接的に自分の生活に跳ね返ってきている。

世界の変化するスピードが早過ぎて、それについていくことが難しいのだ。どうすればいいかわからない毎日。人を集めてそこで作った曲を演奏するという、当たり前だと思っていたその行為。私達の音楽活動。今までの当たり前が当たり前で無くなっていく、価値観がバラバラに壊れる音が聞こえるようだ。

 やる気満々で、ただもしもの時のために当日券のみでの開催を手配している5月頭のアルバムリリースイベント、奈良NEVERLANDと東京O-EASTの2本のライブもおそらくこのままいくと開催は難しいのではないか。ギリギリまで検討して決めるつもりではいるが、ここから急に状況が良くなるとは考えにくい。収入は途絶え、仕事として成り立たなくなるのも時間の問題だ。

 

自分の信じた音楽は、果たして人が生きていくのに、必要なのか。

 

音楽だけではない、映画や演劇、芸術活動、表現活動、それ以外にも、エンターテイメント全般。そんなもの要らないと思ったことは今まで一度もないが、万人にとってそれが同じように必要なわけではない。そこに宿る感動や喜びは目に見えないものだ、衣食住とは違う。

その感覚を確かめるために少しづつ積み上げてきた自分なりのやり方。前作アルバム"In Dreams"をリリースし、CDとレコードの全てをLOSTAGEライブ会場手売りとTHROAT RECORDS店頭・オンラインショップで販売し、お客さん一人一人の顔を見て自分達の作った音楽を届けることが出来るかを確認しながら3年間やってきた。そして、このやり方で続けていけるという実感があり、自分に出来ることと出来ないことのキャパや所謂音楽業界との距離感もわかってきた。百姓が育てた野菜を売るように音楽を売って暮らしていくことが出来るんじゃないか、そのための仕組みを自分達で作ることが出来るんじゃないかと思えるようになってきたところだった。

その流れもあり、今回のアルバムは前作のプロセスを踏襲し、それに加え今までよりもっとライブ・ツアーでたくさんの街に行って、演奏することでより多くの人に直接伝える。それをやりたかった、出来ると思っていたし、やるつもりだった。

しかし、これが、なかなか思ったようにいかない、いつ何が起こるかわからないのが人生だ。ライブは出来ないし、店も開けられない、挙げ句の果てにスタジオでの練習や録音作業も控えた方がいい空気になってきている。八方塞がり、万事休すか。

 

ここは一度、原点に立返ろう。集客も売上もゼロかそれ以下、なんのアイデアもスキルなく、他にやることもなく、猿の自慰行為よろしく同じことをひたすら繰り返し、次のライブだけを目標にバイトで稼いだ身銭を切ってスタジオに集まり、磨り減っていくだけ先の見えない生活。それでも好きな音楽をやり続けることで自分は何度も救われてきた。その日々があったから、今ここにこのアルバムがある。芽が出るかわからない種を荒れ地に蒔いて水をやり続けてきたというわけだ、そろそろ収穫の時期だと思いたい。

 今、出来ないことを引きずっていても仕方がない、時間も無駄だ。気持ちを切り替え、そしてやれることをやるしかない。こんなことで自分の音楽を諦められるわけがないのだ。

 

事態の収束までの間、LOSTAGEの新しいアルバム"HARVEST"はBandcampからデータで販売、一緒に前作のIn Dreamsも期間限定でデータ販売することにした。値段はCDやレコードよりも安く設定してあるが、それより多めに支払ってもらうことも出来る。売り上げはBandcampへの手数料(良心的分配比率だと思う)支払い後そのままLOSTAGEとTHROAT RECORDSに入るのでサポートがあればあるだけありがたい。が、なくても全く気にしなくていい。まずは音楽の話だ。せっかくなんで出来ればダウンロードはwavファイル(1.7GBもあるが)の、いい音で聴いてもらえると嬉しい。

 

この音楽を必要とする人がどこかにいるならば、こんな状況だからこそ出来れば早く届けたい。

 

不安を抱えながらそれでも生きていかなくてはいけない人達の暮らしに、その生活の何か足しになれれば本望だ。今自分に出来ることはものすごく少なく限られているけれど、諦めるのはまだ早い。この長い暗闇のトンネルの向こうから、まだ誰も聴いたことのない新しい音楽が聴こえる。そしてきっとその先に新しいやり方、伝え方が生まれてくるに違いない。

 

 

https://lostage.bandcamp.com/

 

 

アルバム参加メンバーや内容についてはまた何かの機会でゆっくり話したいと思うが、この作品に関わった全ての人に感謝とリスペクトを。そして今窮地に追い込まれている、自分達の信じた音楽が鳴らされるべき全ての場所で、いつかこのアルバムの収録曲を思い切り演奏することが出来る日が来ることを切に願う。

 

 

 

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LOSTAGE / HARVEST

THC - 013

1.かぎろひ 2.パルス 3.独楽 4.髑髏 5.Les Misérables 6.MESSAGE 7.HARVEST 8.グレイアイドフィッシュ 9.残像

 

Throat / Acoustic Guitar : Takahisa Gomi
Guitar : Takuto Gomi
Drums : Tomokazu Iwaki

Bass / Percussion / Chorus : Kazuya Hori (AYNIW TEPO)
Piano / Keyboards : Koichi MIZUKAMI
Chorus : Achico (Ropes)


Words : Takahisa Gomi
Music : LOSTAGE


Recording & Mixing & Mastering : Keishiro Iwatani
Recording Assistant : Nozomi Tomita
for MORG STUDIO / Cold Brain Studio

SCULLpture : Tomonobu Asamura
Photograph : Kuniyoshi Taikou

Love : Gotch / WAVE RIDER LLC